お母さんは最後はずっと苦しんでいて、笑顔を見せてくれなかった。だから、お母さんが笑っている姿を見たい、と。

 綺麗な男の子だったような気はする。だが、彼の容姿よりもその話の内容が鮮烈で、その少年のことまでははっきりと覚えていなかった。

 だからわたしはお母さんが笑っている絵を描いたのだ。

 それから彼に会うことは一度もなく、彼に絵が完成したことを伝えることもできなかった。
 だから、わたしは文化祭の直前に先生に頼み込んで、その絵に変えてもらったのだ。

 先生からの評判もよく、すんなりと変更できた。

 もっともそこまで似せて描くことはできなかった気がする。

 スケッチブックに涙が落ちた。

 だから彼はわたしの高校の文化祭に行き、あの絵を見てくれたのだろう。

 あの日から、わたしと聖の関係は始まり、彼はわたしを思い続けていてくれたのだろう。

 わたしはそれさえも過去の記憶として終わったことにしてしまっていた。

 もっと早くに出会えていたらよかったとは思った。けれど、実際は出会っていて、記憶の中にいた彼にわたしが気づいていなかっただけだったのだ。

 すべての鍵を握っていたのに。