わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 みんな何かを心の中に抱いていたのだろう。それは相手を愛するが故のことだ。

 結局はわたしがどうしたいかだ。
 心は半分決まっていた。だが、最後の一押しをする覚悟を決めかねていた。

「ありがとう。これからのことは考えてみる」

「分かりました。わたしがあなたにこうしたことを言うのはこれで最後にします。だから、よかったらまたお店に来てくださいね」

 そう言ってくれた茉優さんの家を後にした。

 茉優さんの家を出たころには、もうすっかり太陽が沈んでいた。

 舞香に連絡を取ろうかと思ったが、やめておいた。

 きっと何らかの形で茉優さんから聞くだろうから。

 茉優さんが教えてくれたことは、聖の決して口にしないことだった。きっとわたしに話をしたとしたら、いくら優しい彼でも怒りをあらわにするだろう。

 彼女は聖のために悪人になろうとしたのだろう。その彼女の彼に対する深い思いだけは、嫌というほど痛感してしまっていた。