「それでもきっと雄太さんを忘れられなかったんでしょうね。だから、彼女から彼にもう一度告白をしたと聞いた。その女性を擁護するわけじゃないけど、雄太さんにはそのとき、付き合っている人がいたから諦めようとも思った、とも。ただ、最後に自分の気持ちを伝えたかった、と」
その結果雄太は彼女を選んだ。
「聖が自分のために兄が恋人と別れたと知ったのは、大学三年のときで、ずっと気にしていたんです。兄の幸せを妨害してしまったんじゃないかと。聖は働き始めてお金を返そうとしたけど、それはお兄さんが受け取らなかった。自分の自己満足だから、受け取ってくれ、と言い張って。どこまで言っていいのかは分かりませんが。
だから、聖はお兄さんと他の人を選べと言われても、お兄さんを切り捨てることはできないと思います。それがたとえあなたであっても。あの人がいなかったら、自分はここにいなかったと思っています」
わたしは唇を噛んだ。二人の間にそこまで重い荷物があるとは考えていなかったのだ。
雄太は聖の幸せを、聖は兄への恩返しを望んでいたのだろう。
「わたし、知らなくて」
「知っていていったのなら、救いようがないですよ」
茉優さんはそういうと、肩をすくめた。



