わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 わたしは以前、聖から聞いた話を思い出していた。

「そんなとき、彼のお兄さんが言ったんです。学費と少しばかりの生活費なら自分が出すから、気にするな、と。もちろん聖は断ったけど、結局お兄さんが自分のわがままだからと押し通す形で聖を大学まで通わせることになった」

「雄太が?」

 わたしは思わず名前を呼んでしまったことを悔いた。だが、茉優さんは追及せずに頷いた。

「彼は彼なりに罪悪感を覚えていたらしいです。それは知っていますか?」

 おそらく彼の母親が彼を妊娠した経緯だろう。

 わたしは頷いた。

「ただ、それをよしとしなかったのが、春奈さんです。あの人は反対していたの。あなたにそこまでする義務はないと。そして、二十代のうちに結婚して子供を産みたいからと、学費を出すなら雄太さんと別れると言い出した。雄太さんは彼女よりも聖の学費を出すことを選び、彼女と別れることにした」

 彼は今の婚約者よりも聖を選んだのだろう。彼の言葉には聖への深い愛情がのぞいていたのだ。なんら不思議ではない。

 聖が大学を卒業したのが一昨年。わたしと雄太が付き合い始めたのがその時期。まだ若かった彼にとって学費を出すなど、かなりの痛手だ。それにこれから子供が生まれれば学費もかかるだろう。弟より、自分たちの将来にお金を残しておきたいと考え、反対した彼女の気持ちも分からなくはない。