わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 彼女の家は聖の家から少し離れた洋風の一軒家だ。よく手入れをされていると感じる庭を通り、彼女の家に入った。そして、二階の彼女の部屋に通してくれた。彼女の部屋は思いのほかあっさりしていて、物自体が少ない様だ。法律の本が目にはいり、彼女の卒業後の進路を垣間見た気がした。

 すぐに紅茶を持った彼女がやってきた。彼女はカップを並べると、目を細めた。

「今日はありがとうございます。わたしもずっと迷っていたんです。このまま見て見ぬふりをしたほうがいいのか、全てを話すのか。でも、このままの聖を見ていられなかった」

 彼女はそっと唇を噛んだ。

「聖がいわゆる愛人の子だというのは知っていますよね」

 わたしは頷いた。

「もっとも、聖のお父さんは今の奥さんと離婚をしようとしたとか、いろいろな経緯はあるみたいですが、結局は今の家庭を選んだ。聖のお母さんも、彼を頼らずに生きて行こうとしていんだと思います。でも、彼女が亡くなり、彼は今後の進路で悩んでいる時期があったんです。聖はずっと税理士志望だった。大学に行ったほうが勉強時間も取れるし、後々いいのは分かっていても、祖父母に無理をさせてまで通うべきか、就職したほうがいいんじゃないかとか」