わたしは元婚約者の弟に恋をしました

「そんなの全く気付かなかった」

「気づいたら嫌がりそうだもの。付き合い始めたと聞いて、うまくいけばいいとは思っていたけど、うまくいかないね」

 わたしはそうだねと頷いた。

 彼とわたしがわかれた本当の理由はわたしと雄太だけの秘密だ。別れてから、彼の弟のことで共通の秘密を持つなんておかしい気がした。

 聖の話をしたからだろうか。懐かしい感情が脳裏に蘇った。

 今まで疑問に思っていたことがふと心に過ぎり、問いかけたくなった。

「岡本さんはどうしてわたしを好きになったの?」

「そんなのも知らないの?」


「教えてくれなかった」

「他愛ないことだよ。でも、本人に聞いたほうが良いよ。ほのかに未練があるならね、といいたいところだけど、ひとつだけヒントをあげる。文化祭のことを何か覚えていない?」

「文化祭?」

 部活用に展示する絵を描いて、わたし自身はクラスの喫茶に参加していた。

 わたしが首を傾げると、舞香は笑っていた。

 舞香はそれ以上は聖に聞けばいいと言って教えてくれなかった。できるならそうしている。だが、もう終わったことだ。だからわたしは会話を切り替えた。

「聖とはまだ友達なの?」

「友達らしいよ。今でも月一で会っているとね。彼に新しい恋人ができたかは察しの通りだよ」

 そんな簡単にわたしいがいの人と付き合うなら、最初からわたしを長い間思い続けないだろう。