悲しみを胸に抱くと同時に、映画のワンシーンを見ているかのように現実味のない気持ちも少なくない。きっと映画だと彼女がヒロインで、わたしは彼を略奪しようとした嫌な女か、何も知らない無知な女に過ぎないのだろう。彼らの関係を知らないため、無知ということは否定しないが。

 だが、このままではいけない。まずは親に話をしよう。

 そう決意を固めたとき、わたしの手にした携帯が音を奏でた。

 篠井亜津子と表示された友人の名前を確認して電話を受けた。

「今日の約束だけど、待ち合わせ五時でいい? 琴子が都合が悪いらしいの」

 わたしは思わず声を漏らした。そういえばそんな約束をしていたことさえすっかり忘れていた。あれほど数日前まで気にしていたのにも関わらず。

 今日会うのは、わたしの婚約を知る、高校のクラスメイト。みんなの前で婚約破棄についていってしまえば、一人ずつ報告する必要はない。

 友人に婚約破棄のことを伝えるには最適の場面ではあった。

 親に先に話すべきなのはわかっていたが、ずるずると週末まで伸ばし続けた結果だ。

 さすがに二度、言うのは辛すぎる。

 今日は友人に、そして、明日は親に言おうと決意した。