「今までほのかさんには黙っていたけど、俺には兄がいるんだ。その兄が結婚するらしい」

 わたしはその言葉にドキッとした。

 ここで言ってしまおう。その兄はわたしの前の恋人だ、と。

 言葉が喉に絡みつき、それ以上は出てこなかった。そして、心が痛まないことが、もう雄太とのことが過去であると告げていた。

「そうなんだ。おめでたい話だね。いつ結婚するの?」

「12月。それでほのかさんに兄に会ってほしいと思っている」

「お兄さんに恋人がいると話したの?」

 しらじらしい言葉を発している自分自身が嫌になる。

「兄さんが言っていたんだ。恋人がいるなら会わせてほしい、と」

 雄太は聖からも圧力をかけようとしたのだろう。弟を思うなら、尚更だ。

 わたしと雄太の両親に面識がなければまだよかったのかもしれない。だが、わたしは彼のお母さんとすでに顔を合わせてしまっていた。

「だって、わたしは聖の恋人だし。お兄さんの婚約者に会うなんて。いないって言いなおせばいいよ」

「そんなのできないよ。俺はほのかさん以外とは誰とも付き合うつもりはない」

 わたしは自分の罪深さを改めて思い知らされた。

 自分をここまで好きでいてくれた彼を巻き込むべきではなかった、と。