そのとき、冷たいものがわたしの頬に触れた。いつの間にか空を厚い雲が覆い隠していて、星や月が見えなくなっていた。

 夜更けから雨が降るとは言っていたが、思いのほか早く降ってきたようだ。

 彼はわたしから手を離すと、バッグから傘を取りだした。わたしを傘の中に入れてくれた。

「早く降り出したね。今日は帰る?」

「嫌。もう少し一緒にいたい」

「ほのかさんは意外とわがままだね」

 彼は目を細めた。

 その言葉にわたしの顔が赤くなった。

「俺も同じだけどさ。この雨だと動きにくいな。大雨になると言っていたし」

 確かに彼の言うことも一理ある。お店に長居するわけにもいかないし、だからといってわたしの家には両親がいる。

「じゃあ、もう一つわがままを言っていい?」

「何?」

「どこかで食事もいいけど、聖の家に行きたい」

「俺の家?」

 彼は意外そうな顔をした。

「いいよ。一度行ったと思うけど、何もないよ」

「聖がいればそれでいいの。それにあの家、結構好きなんだ」

 わたしはそういうと微笑んだ。

 わたしたちは通りかかったタクシーに乗ると、聖の家に行くことにした。