聖と付き合い始めたことは、仁美以外は誰も知らない。陰であのようなことを言っていた高校の友人には言うつもりはなかった。もちろん、両親もだ。両親に言えば、別れたときには当然言わないといけなくなるからだ。いずれ別れないといけなくなる前提の関係である聖とのことを両親には言い出せなかったのだ。

聖もわたしが両親に伏せていることは知っていた。

彼自身、その理由は深く聞かなかったが、婚約がダメになったばかりの娘が別の男と付き合い始めたと知れば、親心が複雑とでも考えたのかもしれない。

 聖のほうは誰に言っているのかは分からない。だが、雄太から何かを言われることはなかった。恐らく兄には何も言っていないのだろう。茉優さんがどうなのかは分からなかった。

「何か食べて帰ろうか」

「そうだね」

 彼とのデートは一緒に食事に行くことがほとんどだ。彼の家にはあれ以降、一度も行っていない。

 聖と付き合い始めても家族の話に触れることはほとんどなかった。彼から兄の話を聞いたことも一度もない。だが、雄太が聖の兄だと確定させないことでどこかで逃げ道を作っていたのかもしれない。

 ふと温かいものがわたしの手に触れた。わたしの手を握った聖は頬を赤らめ微笑んでいた。

 なぜ彼はここまでわたしを好きでいてくれるのだろう。あらゆる面から客観的に考えて、わたしには聖はもったいないとされるくらいなのに。

 このままではいけないことも分かっていたが、今は聖との時間を楽しみたかった。