わたしはその予感を現実のものにしないために、あえてその理由を聞かないようにした。しかし、わたしの自分を守るための心遣いは、わたしの言葉自体を奪ってしまった。

 どちらも何も言わず、音も立てない状態が続いた。

 わたしも何度か沈黙をかき消そうと雄太に話しかけるが、失敗を重ねた。そんな静寂をかき消したのは雄太だった。

「結婚の話だけど、しばらくはなかったことにしてほしい」

「どうして? あの人のほうがいいの?」

「そうじゃないよ。ただ、放っておけないんだ。あいつにあそこまで言わせたから。別に別れようと言っているわけじゃなくて、あいつの心の整理がつくまで待ってほしいんだ」

 わたしの友人であれば話は分かる。突然割って入ってきて、泣き出したずるい女性。わたしの彼女に対する知識はそんなところだ。それ以下でもそれ以上でもない。

 彼と彼女は幼馴染で初恋の相手だったこと、ここ最近は付き合いがなかったことを事細かに教えてくれた。わたしは随所でぼうっとなる意識をどうにか保ち部分的に彼の話を聞いていたのだ。

 意地悪な見方をせずとも彼にとって彼女は特別であり、わたしとの婚約を破棄してまでも一緒に居たい相手だということだけは分かった。