わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 わたしたちはバスを使い、お店まで行くことにした。お店の看板はcloseと表示されていたが、電気が闇に溶け込むようにほんのりと光を放っていた。茉優さんは鍵を取りだすと店内に入った。

店内には髪の毛を一つに縛った目鼻立ちの整った女性がカウンターにいた。彼女はわたしたちを見ると目を細めた。茉優さんのお母さんだろう。

 あらかじめ茉優さんが電話で了承を得ていたため、彼女もわたしたちが来ることを知っていたのだ。

「ようこそ。茉優の母の宮部美紅です」

 彼女はカウンターから出てくると、わたしたちに手を差し伸べた。
 わたしと仁美もそれぞれ、自己紹介を済ませた。
 そして、近くの円形のテーブルの席に案内された。

「すぐに持ってきますね」

 奥に行こうとする茉優さんをお母さんが制した。

「わたしが持ってくるから、茉優はゆっくりしていて」

 彼女はお礼を言うと、わたしたちの隣のテーブルに座ろうとした。そんな茉優さんを仁美が制した。

「せっかくだから、茉優さんが嫌じゃなかったら一緒に食べようよ」

 茉優さんの表情がぱあっと明るくなり、わたしたちの席に座ってた。

 すぐにケーキが届き、わたしたちは早速食べることにした。

「おいしい」

 仁美はそう言葉を漏らすと、うっとりとした表情でケーキを口に運んだ。