わたしは唇を噛んだ。きっと彼が弟なのだ、と。そう考えればすべてつじつまが合った。本当は名前を聞き、確信したかったが、そこまで聞くのはさすがに怪しすぎた。それに税理士ではなく、財務関係とぼかしたのは彼もあまりそのことを追及されたくなかったのだろう。

「そっか。ありがとう。ふと思い出して気になったんだ。じゃあね」

「いいや。こちらこそいろいろ悪かった」

 わたしは彼の言葉に返事をして電話を切った。

 少し前なら傷ついたであろう謝罪の言葉ももう届かなかった。もう謝ってもらう必要性を感じていなかったからだ。彼から受けた傷は完全に塞がったわけではない。だが、わたしの傷が痛まないようにその代わり岡本さんが覆ってしまったから。

 視界が霞むのが分かった。

 だが、そんな気持ちはもう終わりにしないといけない。彼と会うのも控えないといけない。このままフェードアウトするのが一番いい。今なら彼に対して抱く気持ちを完全に封印できるだろう。

彼は雄太のお父さんが他の女性との間に作った子なのだから、と何度も言い聞かせていた。