百鬼夜行 〜王子と狸と狐とアイツ〜



私は、周くんに尋ねようと、ぱっ、と振り返ろうとする。

すると、周くんの大きな声が聞こえた。


「振り返っちゃ、ダメだ!」





ぴくん!として、私は動きを止める。

周くんは、小さく、震える声で私に言った。


「……今だけ、僕は引き止めないから。」


……!


私は、黙ったままその場に立っていた。

そして、小さく呼吸をして口を開く。


「…ありがとう、周くん。

気持ちを伝えてくれて、嬉しかった…!」


周くんが、小さく息をするのが聞こえた。


私は、周くんを振り返らずに足を踏み出す。


……周くん。


いっぱい、助けてもらったね。

あなたの優しさに、私は何度も支えられてきた。

周くんの笑顔があったから、私は今まで諦めずに事務所で働き続けられたんだよ。


……本当に、ありがとう。


私は、心の中でそう呟くと、地上へと続く石階段を駆け下りた。


**


《周side》


詠ちゃんの後ろ姿が、遠く階段の向こうに消えていった。


……はぁ。


僕は、小さく息を吐く。


……良かったんだよな…これで…。


すると、木の陰から茶髪の青年が顔を出した。


「…“今だけ、引き止めない”…か。

…どこまでも優しいよな、周は。」


現れた相楽くんの言葉に、僕は小さく目を細める。


「相楽くんも、ありがとう。

……見届けてくれて。」


相楽くんは、僕の言葉に苦笑しながら言った


「そりゃ、周と詠のことはずっと見守ってきたからな。

……まぁ、今日の俺は“慰め役”だから。」