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────それから、一ヶ月後。
世界は、何事もなかったかのように
当たり前の日常を取り戻していた。
朝起きて、軽めの朝食を作り
学校へ行き、周くんや遊馬と喋る。
たまに顔を見せにくる雅と笑いあっては
過去の思い出に蓋をするように振る舞った。
…もう、事務所はそこになかった。
芝狸が妖界に戻った後
事務所は、ただの空き家に戻り、綺麗だった部屋の中はホコリだらけになっていった。
…私の生活で変わったことといえば
朝の占いを見なくなったこと。
…あの占いは、当たらない。
“運命の出会いがある”
そんな予言、嘘だった。
…遥の言っていた通りだ。
運勢が一位の日でも、隣に遥がいなければ
そんなの何の意味も無い。
…ふと、おんぼろアパートの部屋の中で一人になると、考えたく無いことまで頭に浮かぶ。
無意識に隣の部屋との壁を見つめる。
遥は、もう隣にいない。
でも
遥がいなくなってからも、“遥の跡”はそこら中にあって
ふと、声が聞こえたような気がしたり
テレビを見て、笑っている気がしたり
朝になって目覚めると、一番最初に“遥を起こさなきゃ”と思っている自分がいたり
“遥との記憶”が、まるでジグソーパズルのように私の思考に自然と埋め込まれていて。
それは、遥が消えても、なくならなくて。
……心の中から
いなくなってくれなくて……。



