《周side》


はぁっ、はぁっ!


芝さんを抱えて走ること約十分。

竜ノ神の山の隣に建つアパートが見えてきた。


……詠ちゃん……

……詠ちゃん、無事でいて……!


息を切らしてアパートの階段を登ると

目の前に、ピクリとも動かずに立ち尽くしている相楽くんと雅くんの姿があった。


…!


尋常ではないその様子に
僕は二人の背後から声をかける。


「何があったの…?!

詠ちゃんは………?!」


すると

相楽くんが少し震えながら振り向いた。

その表情は、見たこともないぐらい動揺していて、いつもの余裕は少しも無かった。


「佐伯が………紺に連れ去られた……!

……止められなかった……!」


「…!」


どくん…!


心臓が鈍く音を立てた。


………遅かったか………!


雅くんが、震える声で呟く。


「俺が事務所に遥のことを持ち込んだから…

………俺のせいだ………!」


すると、芝さんがトッ!と
地面に降り立って僕たちに言った。


『うろたえるな、皆の者!

紺は、九条をおびき出す為に小娘を利用しようとしておる。だから、すぐに殺したりはしないはずじゃ……!』