はぁ……。
まさか、全部聞かれてたなんて………
頭に、詠ちゃんの姿が浮かぶ。
……彼女が遠ざかっていく背中を見てたら、どうしようもなくなって。
つい、感情のままに追いかけて抱きしめて…
挙げ句の果てに…………
“……………好きだ。
………行くな…………詠………!”
っ!!
僕は、なんてセリフを…………
思わず、芝さんを抱いている腕の力が
ふっ!と抜けた。
ドサ!!
芝さんが地面へと落下する。
『っ!痛っ!!
なんじゃ周!さっきの仕返しか!』
あ…やば……
「ご…ごめん、芝さん。
つい、考え事してて………。」
僕は、毛を逆立てる芝さんに謝りながらふと立ち止まった。
「!…ここ………」
目の前に“逢魔街十三番地”の看板が見えた。
………着いた…。
ここが、八雲との取り引きの場所……。
僕が、ごくり、と喉を鳴らすと
芝さんが僕の前に進んで言った。
『…紺の気配はせんわい…。
八雲が言ったことは本当なのかもしれんな』
僕は、その言葉に頷くと
芝さんとともに暗い路地裏へと足を踏み
入れた。