十六の春。


私、佐伯 詠(さえき うた)は
ここ、“夢ヶ原”に引っ越してきた。


母親は私が生まれてすぐに他界。


父親と暮らしてきたけど、
その父親も、去年事故で帰らぬ人に。


そして、一週間前。


私は一人暮らしをするために高校入学と
同時に

家賃の安さだけで決めた“おんぼろアパート”に引っ越してきた。


窓を開ければ、そこには山と森と…

……墓。


……風情も何もない。


アパートの二階に部屋を借りた私は、階段を登るたびにギシギシいうこの環境に少しおびえている。



……ここ、いつか階段に穴空いちゃうよ…。



いくら家賃が安いって言ったって、安全面が心配になる。


私は、ふぅ……とため息をついた。


家具は元々いた家から持ってきたからある程度は揃っているけど

問題は食費と家賃。



「バイトしなきゃ……。」