大丈夫、と手を上げる。もう少し体力が回復したら店を出よう。 「自転車乗っていきます?」 「絶対スリップしそうだからやだ」 「縁起でもないこと言わないでくださいよ」 くるくると鍵を回す音。 グレ男が近くのボロパイプ椅子に座る。「お疲れ」と他の従業員に声をかけられて、挨拶を返している。 それを見て、ふふ、と声を出して笑う。 「あのグレ男が挨拶されて返してる」 「面白いことっすか?」 「馴染んでくれて、教育係は嬉しい」 膝を抱いた腕から顔を上げると、対面に座っていたグレ男が肩を竦めた。