だから、思い出せなかったんだ。 「……怖かったから」 「何が?」 「あたしを見てないひと」 心なく笑えば、頬を指で撫でられる。 「これからは、こっち見て」 それから脇腹を撫でられて、背中を震わせる。 そういえば、言ってないことがもうひとつあった。幸にも言われていない。 「ね」 「まだ何か?」 「好き」 幸が口元を覆う。 「惜しかった」 「ん?」 「俺は愛してる」 子供っぽい言葉の投げ合い。 あたしたちは勝手に大人になっていただけだ。