Fiore Zattera


そんなこんなでうちは貧乏だった。このマンションだってあたしが高校卒業間際に引っ越した。前はもっとぼろいハイツに住んでいた。

「っていうでしょう」

そして去年、仕事先で急に倒れて、そのまま逝った。
あたしは看取ることもできなかった。

癌だったらしい。身体のあちこちが痛かっただろう、と誰かが言った。
それなのに病院に行かなかった。

「幸とは縁切りたくないし」

「……ごめん」

「てことで、金は返すから。じゃあ行ってきます」

リビングを出ようとした瞬間、後ろから手を掴まれる。驚いたのは掴まれたことに対してじゃなくて、幸の指が冷たかったから。