「バカ……」


いきなり罵られてビクついた。

こっそりチューなんかしようとしたからバレたのか?




「…………寝言か…」



スースーと寝息を立ててるヤツにホッとする。
罵声を発した後の菅野は、何事もなかったような表情をしてる。


「うっかりチューもできねーなこいつは。まるで目ぇ閉じてても心の目が開いてるみてーだ」



妖怪か何か……?


自分の言葉に笑いそうになる。
昨夜と同じくあどけない顔して寝てる菅野は、俺の前ではまるで天使か小悪魔だ。



「飽きねーな…この顔……」


ずぅーっと眺めておきてぇような良さがある。

こればっかりは、さすがの梨花も敵わねぇ。



「好きだぞ……美結……」


夢の中で菅野が抱えてる苦しい気持ちを知らずにほくそ笑んだ。

俺達はお互いのことを理解するほど近い距離にはいなかった。

相手がどこを見てるかなんて、まだ何も知らずに生活してたんだ……。