涙の雨と僕の傘

俺が名瀬の誕生日を知っていることに、彼女は驚いていた。


かなり前に、一度聞いただけだったけど、忘れるわけがない。



「でも、何で傘?」


問われて笑う。


そうだろう。

俺がずっと、君に傘をあげたいと思ってたことなんて、君にわかるわけがない。



「最軽量だっていうから」

「確かに、傘と思えないくらい軽いね」

「それくらい軽ければ、名瀬でも鞄に常備しておけるかなって」



たとえ天気予報が晴れマークでも、

突然雨が降ることはある。


そんな時、使ってほしい。




「雨が降ってても、俺の傘に入れられないなら」




初めて言葉を交わした日。

君に相合い傘を断られた。





「せめて濡れないように、持っていて」




何もできない俺の代わりに、


君を冷たい雨から守ってくれる。




雨以外なら、俺がなんとかしよう。



たとえばデートの日、きみが喉を痛めていたら、のど飴をあげる。


彼氏に渡すクッキーを割ってしまったら、俺のを代わりにあげる。


彼氏との仲を深めたいなら、手にいれるのが難しいチケットも、知り合いに頼みこんで君にあげる。


迷って彼氏の元に行けないのなら、探しだして、俺が連れて行ってあげる。



だから雨だけは、


その傘を君の手で差してくれないか。



もう二度と、涙の雨に濡れないように。





「その傘使って、行ってらっしゃい」