涙の雨と僕の傘

「名瀬、待って」


ちょうどローファーを履いたところだった名瀬が、鈍い反応で振り返る。


フラフラしながら近づくと、名瀬がふと、窓の方に目をやった。


「……雨?」


言われて気づく。

確かに外から、微かに雨の音がしていた。


「ほんとだ、降ってるね。……名瀬、傘は?」

「私が持ってると思う?」

「だよね」


だから君はよく濡れていた。


俺は傘の中から、それを見ることしかできずにいたけれど……。



「名瀬、これ」


リボンのついた包みを、名瀬に差し出す。

名瀬の指が包みを開くと、


「傘……?」


出てきたのは、水色の折り畳み傘。


「ちょうど良かったよ。それ、使って」


風邪を引く前に買いに行っておいて良かった。

おかげで今日、彼女に渡すことができた。




「だって名瀬、誕生日でしょ?」




君が生まれた日に、これを渡せて嬉しい。


今日来てくれて、本当にありがとう。