涙の雨と僕の傘

「おかゆのレトルト、いっぱい買ってあるから。あとポカリと、ゼリーと、ヨーグルトも」


うん、ありがとう。


名瀬は洗濯までしてくれた。

カサカサしてた空気が潤った気がする。


飲み物やのど飴や果物を、ベッドから手の届くところに用意してくれた。


それでもまだ、何かできないか考えてくれる。

悩んでくれる。


俺を置いて行くことに、罪悪感を抱いてる。


いいんだ、気にしないで。

もう十分だから。


俺のことはいいんだよ。



「明日も来るから、欲しいものがあったら連絡して」


明日も来る。


そうか、明日もまた、名瀬に会えるんだ。

それなら俺は、安心して眠れる気がする。



「名瀬、ありがとう」

「たいしたことしてないよ」

「いや。いままでは、風邪引いて熱出ても、いつもひとりだったから」


壁に飾った家族写真を見た。


眠る前、両親のことを思い出していたからか、夢に出てきた。

そして夢から覚めると、名瀬がいたんだ。



「具合悪い時に看病してくれる人がいるって、本当にありがたいし、安心するんだなって思った」


ありがとう。


5文字の言葉に、心を乗せた。

それ以上の言葉を、俺は知らない。


名瀬は首を横に振ると、目を伏せた。

一瞬、苦しそうに顔を歪めたように見えた。



「……じゃあ、私行くね」


小さく呟き、名瀬は早足で玄関に向かう。


その背中を見て思い出した。


そうだ、忘れてた。

危なかった。

せっかく今日会えたのに、チャンスを逃すところだった。



学校で渡すつもりで鞄に入れていた包みを手にとり、名瀬を追う。