涙の雨と僕の傘

ちょっとごめん、と名瀬が電話に出る。


ここでようやく俺は、時計を見た。

ちょうど放課後になった頃。


俺、いつから寝てたっけ。

昨日の夜から記憶がない。



そうか。

今日はもう、12月なんだ。



「いま、学校じゃないんだよね。どうしたの?」



どうしたの、なんて。

そんなの決まってるじゃないか。


今日という日に、彼氏の方から名瀬に電話をかけてきた。

それってそういうことなんだろう。



名瀬がたいして喋らないうちに、電話は終わったらしい。



ふぅと小さく、名瀬が息を吐く。


その瞬間、俺は無意識のうちに、細い手首をつかんでいた。




「……行っちゃうの?」




もう少しで、「行かないで」と口にするところだった。


やっぱり病気の時は、心が弱くなる。

危なかった。


名瀬は困ったような、申し訳なさそうな顔でうなずいた。



「うん、ごめん。アイツからだった」

「……そう」



そりゃあそうだ。


今日彼氏から誘われて、名瀬が嬉しくないはずがない。

断らないはずがない。



俺は、今日この日、彼女に会えただけで、


彼女が来てくれただけで、奇跡だと思うべきだ。



実際、奇跡にちがいないんだから。