名瀬の少しつり気味の瞳から、透明なものが零れ落ちた。


きれいだと思った。

可哀想だとも思った。


ハンカチを差し出す。

1度使ったけど、まあ大丈夫だろう。



「……別に、嫌いになる必要はないんじゃないの」



夕方の空を眺めながら、思ったことを口にする。

名瀬の視線を、横から感じた。



「それ、どういう意味?」

「さあ」



言わずにおいたら、名瀬は不満そうにしていたけれど、


教室を出る時御礼を言われた。



「愚痴ってすっきりした。ありがと」



さっきまで泣いていたのに、明るい笑顔。


無理しているのが丸わかりで、痛々しい。

心の中でまた、名瀬の彼氏を100回くらい罵倒しておいた。




彼女と生徒玄関に着いた途端、降り出した強い雨。

バケツをひっくり返したよう。


靴を履き替えて、名瀬の隣りに立つ。



「すっごい雨だねー」

「うん」

「まるで私の涙のよう」

「……」

「なんちゃって」



冗談めかして笑う名瀬。

そんなにムリして笑って、心が壊れないか、心配になった。


俺は毎日折り畳み傘を持ち歩いている。

名瀬は持ってきていないようなので、一緒に入っていくか聞いたら断られた。



「やめとく。一応彼氏持ちだし」

「……でも」

「浮気されてんだけどね。でもさ、私ならイヤだからさ。アイツが他の女の子と相合い傘してたら」

「そう……」


そんな男の為に濡れる必要なんてないんじゃないの?


その言葉を飲み込んで、俺は雨の中に飛び込む彼女を見送った。

見送ることしか、できなかった。