ひとりきりの俺にとっては、たかが風邪でも体調不良は致命的。
病院に行くどころか、着替えるのも、冷蔵庫から水を出すのも億劫で、ひたすらベッドの中にいた。
咳こみ、鼻を噛む。
自分の荒い呼吸を聞きながら、このまま死ぬのかもしれない、なんてことを考える。
病気をすると、心が弱くなるのはいつものことで。
熱のこもった布団の中で、家族のことを思い出す。
昔は風邪を引いたら、母さんがおかゆを作ってくれたな。
父さんは、桃の缶詰を買ってきてくれた。
なぜ缶詰なのかはよくわからないけど、熱がある時に食べるそれは、格別に美味しくて、ごちそうだった。
具合が悪くても、家族がいれば平気だった。
呼べば、必ず傍に来てくれたから。
「名瀬……」
呼んでも絶対に現れないだろう名を呼ぶ。
俺が死んだら、少しは悲しんでくれるだろうか。
ばかみたいなことを考えて、自分で笑ってしまう。
とにかく寝て、早く治ることを祈ろう。
そう思って眠りについた。
涙がこぼれた気がしたのは、きっと気のせいだ。



