涙の雨と僕の傘

かなり待つことを覚悟したけれど、名瀬がすぐに店を出てきたので首を傾げた。


ひとりだ。

彼氏はどうした。


嫌な予感がして、彼女の元に向かう。



「……名瀬?」



声をかけると、彼女が顔を上げる。


泣くのをがまんした顔で、俺を見た。

彼女のこの顔を見るのは、もう何度目になるだろう。



「いなかった」

「え?」

「時間ないから、グループ戻ってた。怒ってるみたいだから、あとで謝らないと」



やっぱり、そうか。


どうしてだろう。

どうして名瀬の彼氏は、彼女を悲しませることしかできないんだろう。


名瀬を笑わせるなんて簡単だ。

彼女は小さなことでも、すぐに笑ってくれる。

そういう子なのに。


どうしてそれができないんだ。

お前にしかさせられない表情もあるだろ。



「ははは。あーあ。笹原もごめんね? せっかく探して連れて来てくれたのにさ」



ムリして笑う名瀬に、俺まで泣きたい気持ちになる。



「俺はいいよ。……グループに名瀬がいないと気まずいし」

「うそうそ。もう皆と結構打ち解けたじゃん」

「無理してるだけ。やっぱり名瀬がいちばん落ち着く」



こんな言葉、慰めにもなりはしないけど。

少しでも元気になってほしくて、俺の本音を口にする。



名瀬は笑った。

泣きそうな顔で、笑った。