涙の雨と僕の傘

地図アプリを使っても迷ったらしい名瀬。


もう約束の時間は過ぎていると泣きそうな顔で言うから、俺は彼女の手を引いて、その待ち合わせ場所まで走った。



せっかくの修学旅行なんだ。

泣いてほしくない。


名瀬には、笑っていてほしい。



その気持ちをこめて、彼女の温かい手を強く握りしめた。



待ち合わせ場所の店はすぐに見つかった。


これで俺も、ようやく安心できる。



「行っておいで」

「え。笹原は?」

「俺が行ってどーすんの。彼氏も困るでしょ」



顔を合わせたら、殴る自信がある。


彼女が迷ってんだから、探すぐらいしたらどうなんだ。

ナンパされてたんだぞって。


最低でも平手打ちくらいしてもいいだろう。


そんなことをしても、名瀬は喜ばないからしないけど。



「いいから、ほら」



トンと軽く背中を押せば、名瀬はこっちを振り返りながらも、店へと走りだした。



店内に入る背中を見届けて、息をつく。


さて、これからどうしようか。

真っすぐグループに戻るか、どこか寄り道でもするか。



でも、もしかしたらまた、名瀬が迷うかもしれないし。


デートのあと、彼氏が俺たちの元まで送ってくれればいいけど。



彼女が迷っていても探しにも来ない奴が、送り届けることをするだろうか。



「……待つか」



意味がないかもしれないし、彼女と彼氏の幸せな様子を見るという拷問を受けるだけかもしれないけど。


それでも、待ってみようと思った。