涙の雨と僕の傘

「迷うんじゃないの?」

「大丈夫だって。子どもじゃなし。地図アプリもあるからさ」



昼食をとったあと、名瀬はそう言ってグループを抜けた。


心配だ。

彼女はそそっかしいところがあるから。


アプリがあっても、うっかり道をひとつ間違えて、ぐるぐる同じところを回ったりしそう。



「ごめん。俺もちょっと抜ける」



メンバーにそう謝ると、みんな訳知り顔ですぐに承諾してくれた。


もしかしたら、俺が名瀬を好きなことに、みんな気づいているのかもしれない。

気づいてないのは名瀬だけか。



名瀬を探して、古都の街を走る。

すぐに追いかけたはずなのに、彼女の姿がすぐには見つけられない。


夏休みにあれだけ引っ越しのバイトで運動したくせに、息が切れるのはあっという間だ。

運動不足を痛感する。



大きな通りに出た時、やっと名瀬を見つけたとほっとしたのもつかの間。


彼女は数人の男子学生に囲まれて困っているようで、

迷う間もなく俺はアスファルトを蹴っていた。



「なにやってんの、バカ」



名瀬の腕をつかんで引き寄せる。


彼女は突然現れた俺に驚きながら、それでもほっとしたような顔を見せた。


俺が睨むと、男たちは気まずそうにしながらあっさり引き下がっていってほっとする。

ケンカとかしたことないし、相手は4人だから、いなくなってくれて正直助かった。


聞けば道を尋ねようとして、ついでにナンパされたらしい。


本当に、名瀬はそそっかしくて、目が離せない。

追いかけてきて良かった。