「いいえ、大丈夫ですよ」

その女性は、慌てて私からバッグを受け取る。受け取る、と言うか、奪い取る、に近かった。

その行動にちょっとムッとしたけど、悪いのは私なのでそれは顔に出さずに何度も頭を下げた。

「本当にごめんなさい」

「大丈夫ですから」

女性にしては少し重低音の声に頭を上げる。しかし、その低い声色が気にならないほど綺麗な人だった。

(綺麗な人……)

少しの間、見惚れてしまう。

(……あれ?)

私は、何か違和感を覚えた。

(ん?なんだろう。この人、どこかで見た事がある気がする)

確実に初対面のハズなのだが、そんな変な感覚に囚われる。

「あの、突然で失礼なんですが、どこかでお会いした事あります?」

私はどうしよう?なんて躊躇せずに思いきって尋ねてみた。普段はこんな不躾な事しないんだけど、多少は酔っぱらっていると言う事かな。

でも、なんだか妙に気になる。

「えっ!?」

その人は、私の質問に動揺を隠せないでいる。

まあ、そりゃそうか。突然、初対面の人にこんな事聞かれたら、誰でも警戒するだろう。

「い、いいえっ!?今日が初対面です!では、失礼っ!」

その人はそそくさとお店を出ようとパッと顔をそむける。その拍子に綺麗な黒髪ロングヘアーがフワッとなびいた。

(あっ……!)

その瞬間、私の頭の中のモヤモヤが、一瞬でパッと明るく鮮明になった。