会社を出て、食堂街へ向かう人達とは逆の方向に歩き出した津田部長。

足が長いせいか、歩く速度が速くて私は早歩きで付いて行く。外に出た瞬間つないだ手は離れてしまったので、傍から見たら「個人個人で早歩きをしている人」の図になっている。

やっと隣に追い付いても、津田部長は一言もしゃべらないので私は付いて行くだけ。

(どこに行くんだろう……)

結構な距離を歩いたから、とうとうお昼休みのOLやサラリーマンの姿は見えなくなった。

(一体、いつになったら着くの……?)

かれこれ5分は歩いただろうか。数歩前を歩いていた津田部長が急に閑静な住宅街へと続く路地にヒョイっと入って行った。

えっ!?と思い、一瞬足が止まる。

(ここ入るの!?)

どこからどう見ても、住宅街。この先にお店があるなんて、とても思えない雰囲気だ。

戸惑っている私なんてお構いなしに、津田部長はどんどん歩いて行ってしまう。このままでは見失ってしまいそうなので、慌てて掛け寄った。

追い付く手前で、津田部長が一軒の民家にこれまたなんの躊躇もなく入って行く。

(えっ!?)

私は再度驚きの余り、その民家の前で足を止めた。

別段お店をやっている様な雰囲気はなく、周りの家にちゃんと溶け込む様な、可愛らしいチョコレート色のレンガ造りの2階建ての家があるだけだった。

家主はガーデニングが趣味なのか、庭の手入れは行き届いており、草花が生き生きと誇らしげに咲き誇っている。

よくよく見てみるとその中に、小さい看板が埋もれていた。

その看板には、『ガーデニングバー・*Hana*』と、うっすらと書かれている。

(ガーデニングバー?え、バーって、お酒とか出す……?)

入り口で固まったまま動かない私を不思議に思ったのか、津田部長が「何をしてるの?」と声をかけて来た。

「いや、あの……」

「まあ、黙って付いて来なさいよ」

内心、大丈夫かな?と思いながら津田部長に付いて行く。