坂巻……孝義さん?

えーと、光くんの京都の空手道場での先輩で、朝秀先生の親友で、藤巻くんのお父さんの所属するお寺のトップ、だっけ?

てっきり怖そうなおじさんが来るのだと思ったら、普通に、いや、普通以上にイケメンな体育会系っぽいキリッとした青年だった。

「挨拶は?」
「あ。押忍!失礼しました!お久しぶりです!坂巻先輩!」
「ああ。元気そうやな。試合には出てへんけど、真面目に取り組んでるって聞いてる。……がんばってるそうやな。」
「押忍!ありがとうございます!」

坂巻さんにキャッキャとはしゃいでお話してる光くんを見て、置いてきぼりになった朝秀先生と私は苦笑い。

「……まるっきり、昔と一緒。やってられへんな。」

朝秀先生のぼやきに、私はうなずいた。

「でも、光くん、うれしそう……。」

あそこまではしゃいでるのを見るのは、久しぶりかもしれない。

……あ。
一つ、気づいた。
私の知る限り、光くんが無条件に懐いてるのは、光くんママと、明田先生。
どっちも、彩瀬さんの記憶がそうさせてるのかもしれないんだけど……この、坂巻孝義さんは違う。
光くんだけの意志で、こんなにも懐いてるんだ。

そっか……。
何だか、心が温かくなってきた。

掛け値なしの、光くんの好意の対象なんだ……。
よかったね。
光くん。

「朝秀先生。ありがとうございます。坂巻さんを呼んでくださって。光くん、うれしそう……。」

ついそんなことを言ってしまって、ちょっと後悔した。
僭越だったわ。

「桜子ちゃん、ホント、いい子だねえ。俺、マジで惚れそう。」
朝秀先生は肩をすくめてそう言った。

……おどけてるけど、これは本気かもしれない……と、ちょっと身構えた。

しかし、ややこしい人だな……朝秀先生。
最初から折に触れて、軽い口説き文句を多用してらっしゃるのに、冗談と本気の境界線が見えない。

たぶん……今みたいにいかにも冗談っぽいのが、朝秀先生の本気なんじゃないかな。

でも、本気には本気で答えたい。

私は真面目に言った。

「朝秀先生も優しい、いいヒトです。感謝してます。でも、恋愛するには遠い存在過ぎます。ごめんなさい。」