きみと、春が降るこの場所で



早く閉めて、と詞織が急かすから、後ろ手でドアを閉めて、部屋の奥へ進む。


病院自体が大きいから、個室もかなり広い。


「そのくせパイプ椅子って」


ふかふかの椅子にクッションくらい置いとけよ、と文句を垂れていると、詞織が布団をポンポンと叩く。


「こっちおいで、朔」


パイプ椅子よりかは幾分かマシな、柔らかいベッドに腰掛ける。

ずりずりと這い寄って、詞織は俺の隣に正座をした。


「真面目な話があります」


「はい、なんでしょう詞織さん」


真面目な話というのが、出来れば聞きたくない話ではない事を願いつつ、詞織と向き合う。

靴は脱いでいないから、腰をひねっているだけだけれど。


「冬に、なったらね」


「なったら?」


「雪が見たいなぁって、思ってます」


チラッと窓の外を見る詞織の視線を追う。

見事なまでの秋晴れが空のずっと向こう側まで続いている。多分、今日の日本はどこも晴天だろう。


日が落ちるのが早くなったから、もうじき空はオレンジ色に染まり始めるけれど。


「すぐには無理だろうな。つか、去年は埃みたいな雪すら降らなかったろ」


大寒波が来たら、1晩くらいは吹雪くかもしれない。

それも、可能性があるとすれば、冬になってすぐではなく、1月に入ってからだ。


「今年中には無理かなぁ…」


「今年はさすがに厳しい。どうしてもっていうなら、クラスのやつにかき氷機を借りてきてやろうか」


「それはいいよ。…うん、でも、そっか」


しゅんと眉を下げられても、俺にはどうしようも出来ない。

雪が沢山降る地方まで、連れて行けたらいいのだけれど、無理だからな。