きみと、春が降るこの場所で






ペダルが重いのは、体が重いせいだ。


意識しなければたいした距離ではないのだけれど、俺の家から詞織の家まで、時間として30分はかかる。


それだって、タイヤが悲鳴をあげるくらいの猛スピードを出した場合の時間。

今は、自分の体温と照り付ける直射日光に、スピードと反比例して上昇していく熱のせいで、もう家を出て1時間は経っている。


方向感覚さえ怪しい。


何とか住宅街は抜けたものの、延々と続く田んぼに目眩が止まらない。


滝のように流れ落ちる汗がハンドルを滑らせるし、足がペダルからずり落ちそうになる度に、田んぼに突っ込みそうでヒヤヒヤする。


1度でも足を止めると、そのまま倒れてしまいそうだったから、ひたすら無心で自転車を漕ぐ。


詞織の家が見えてきた時には、更に30分が経っていて、どこかで道を間違えた事がすぐに理解できた。

回らない頭、余計な事は考えたくない。


車の駐車スペースのど真ん中に自転車を倒して、玄関へ重い足を引きずる。


インターホンを連打すると、何事かという顔で詞織が出てきた。


「さ、朔?え、わっ!すごい熱……朔?大丈夫?聞こえる?」


ふっと全身の力を抜いて詞織に全体重をかける。

よろけた詞織が必死に足を踏ん張っている事には気付いたけれど、自分で体を支える余裕はない。


「朔、頑張って。部屋まで行こう、ね?」


かろうじて頷いたものの、自分の足では歩けそうになくて、詞織に上半身を引っ張られてリビングに運び込まれた。