詞織を背負って病院へ戻ると、案の定看護師や医者にこっぴどく怒られた。
顔見知りだと、こういう時に面倒だ。
遠慮なく叱り付けられて、はいはいと空返事をしていると、更に怒鳴られる。
しばらくするとスーツ姿の彰さんが来て、医者と話をしに行った。
詞織は大事なく部屋で眠っているらしいけれど、俺は中に入れてもらえなかったから、迷った末に1階のロビーで彰さんを待つ事にした。
どれくらい、待っていただろうか。
外が薄暗くなっているから、多分2時間近くここにいたんだと思う。
エレベーターから彰さんが下りてくるのが見えて、慌てて駆け寄る。
彰さんは一瞬目を見張ったけれど、俺がいる事はわかっていたんだろう。
車に行こうか、と先に出て行く背中を追い掛ける。
車に乗り込むと、前のような緊張感はないけれど、気まずさが漂う。
まず言わなければいけない事は、ひとつしかない。
怒られるかもしれない。さっきの看護師達よりもひどく、怒鳴られるかもしれない。
それでも、言わなければいけない事。
「彰さん、すみません。俺が詞織を連れ出したんです。けど、詞織には絶対に謝りません」
詞織以外の人になら、何度だって謝る。
彰さんが土下座をしろと言うのなら、そうする。
けれど、詞織にだけは絶対に謝らない。
俺は最初から誰にもバレずに抜け出せるなんて思っていなかったし、帰ったら謝るつもりでいた。
ただ詞織にはそんな事をさせたいわけじゃない。
同じだけの事をしたのだから、俺だけが謝って済む事ではない。
それでも、後悔をさせたくて連れ出したわけじゃないから。
詞織には謝らないし、謝らせない。
黙って俺の言い分を聞いていた彰さんは、重そうに口を開く。
「さっき、エレベーターで大熊先生に会ったよ。頭を下げられたけれど、誰にも何も言わないといっていた。あの人は昔から接点もないくせに詞織と仲がよくて、よく詞織の我が儘を聞いていたんだ。なんの為なのか知らないけれど、医者としては問題がある」
溜めていた息を深く吐き出して、彰さんが拳を握り締める。
「けれど、私は大熊先生も、朔くんも、詞織も責めてはいないよ」



