きみと、春が降るこの場所で



ぽかんと口を開ける詞織に、これはさすがに無理やり過ぎたかと、別の事を考える。


なんて言えばいいんだろう。ちゃんと理屈が通っていて、詞織が納得するような…


「っ……ばか!」


「馬鹿!?」


金切り声よりも幾分かマシな、けれどそれに近い声を詞織が張り上げる。


「わたしは…わたしは何も朔に返せないのに、そんな事ばっかり言わないで」


「いや、俺は別に見返りが欲しいわけじゃなくてな」


「わかってるよ!朔もわたしも、同じ事考えてるもん」


ドロドロと溶け出した感情をそのまま口にしているんだろう。

俺だって何が言いたいのかわからないし、詞織もわかっていないんだろうけれど。


変わらない気持ちが、お互いの中にある。


ふっ、と詞織が吐いた息に涙の気配が混じっている事に気が付く。


真っ赤に染まる顔に触れると、冷えていた手に熱が移って、反射的に腕を引っ込めた。


「あっつ!お前熱あるだろ。眠いから体温上がってんのかと思った…帰るぞ詞織。背負うから、な?」


詞織の前にしゃがみこんで、滲む涙を手のひらで拭う。

それでも止まらなくて、瞬きと同時にぼろりと雫が溢れた。


「朔が、いちばんすきだよ」


「おま、それはずるいんじゃねえの」


俺には言うなっていっといて、お前は結局言うのかよ。


熱い頭が肩にもたれてきて、耳に馴染んだ寝息が聞こえ出す。


長い髪を指先で梳いて、詞織を抱えあげた。