きみと、春が降るこの場所で



指先がかじかんで、蛇口を上手く押さえられなくなったから、詞織と2人でベンチに腰掛けてのんびりとする。


眠そうだけれど、俺の冷えた手を両手で包んで暖めようとする詞織に、ポツリと漏らす。


本当は、毎日だって言ってやりたくて、けれどいざ言葉にしようとしたら躊躇ってしまう事。


「明日も、一緒にいような」


毎日会えるわけではないから、“またね”と曖昧な約束をしてきた。


夏辺りから、詞織が“またね”を口にする事が減ったのには気が付いていたから、俺が言うようになって。

“またね”を返してはくれなくても、詞織が笑うから、それで良かったんだけれど。


人間というやつは、どこかで欲が出る。


毎日一緒にいたい。

俺の未来は、1秒後でもあり、明日でもあり、10年後でもある。


だから、いつも一緒にいたいと思ってはいけないかな。


未来と一生をお互いに捧げて、これ以上ないくらい幸せなんだけれどさ。

きっと、詞織と一緒に居る明日は、もっと幸せだと思うんだ。


「それは、うんって言わなきゃだめ?」


「駄目。うん以外禁止」


いつか、俺に見える場所にいると言っただろう。

あれは今思えば、というかあの時も思ったけれど、俺が言わせたものだとしても。


詞織が自分の口で言ったんだから、訂正なんてさせない。


渋る詞織に、極めつけをひとつ突き付ける。


「俺はさっき掴んだ桜に願い事をしました」


「え、なに急に」


「詞織の明日をつかめますように、ってな」