きみと、春が降るこの場所で






河川敷からの帰り道、真っ直ぐ帰るのは何だか勿体ない気がして、小さな公園に寄り道をする。


そこにも桜はあったけれど、詞織は見向きもせずにベンチでウトウトと船を漕ぐ。


「詞織、ほら見ろ」


気を逸らしてやろうと思い、すぐそばにあった蛇口を捻る。


零れ出る水は背筋まで鳥肌が立つくらいに冷たかったけれど、蛇口部分を掴んで上向きにセット。


こんなんするの小学生以来だから、上手く出来るかはわからないけれど。


親指で噴出口を強く押すと、圧縮された水が弾けて、大きく弧を描く。


まだ太陽が真上にあるから、位置を調節しにくいけれど、この辺りならちょうど水しぶきに光が当たる。


「わっ、虹…?」


眠いからか、ほんの少し赤い頬を更に赤く染めて、詞織が興奮気味に近付く。


7色とはいえないけれど、緩く放物線を描く小さな虹が浮かんでいた。


俺の角度だとあんまり見えないんだけれど、詞織に見えているならいい。


「昔ね、虹の上は歩けるんだと思ってたの」


「そりゃ無理だろ。触れないし」


「うん、無理だったんだけど。たとえば足跡が残るなら、ずっと先の未来で追いかけてきてくれるかなぁって」


誰が、とは聞かずともわかる。


詞織が虹に足跡を残して、俺がそれを追いかける。


夢のような話なのに、叶いそうな気がする。