視界がぼやける。
ただでさえ溶けて消えてしまいそうなほどに儚い桜の中にいる詞織が、見えなくなる。
がむしゃらに手を伸ばして、触れた体温を引き寄せる。
「朔がくれるもの全部、大好きだよ」
背中に回った腕が、耳に篭る声が、包み込む体温が、こんなにも愛おしい。
「わたしの幸せが、ほんの少しでも朔の幸せになりますように」
詞織の手のひらに桜の花びらはないけれど、その願いは叶うに決まっている。
だって、俺は今、限りなく幸せだ。
「ありがとうね、朔」
少しだけ、距離を開けた詞織が両手で俺の目を覆う。
屈んで、と言うから、膝を曲げて詞織と同じ高さに目線に合わせる。
「朔の未来にわたしがいるなら、わたしはずっと幸せ者だね」
吐息がかかる距離で、詞織がゆっくりとなぞるように囁く。
ふ、と目元に触れた息を拒む間もなく、肌よりも熱い温度が額に触れた。



