一際強い風が吹いて、花びらが舞い上がる。
手のひらに乗っていただけの花弁も、吹雪のように舞う桜に紛れて、どこかへ落ちた。
「詞織」
こんなに目の前が花びらで満たされている今なら、両手を出しているだけで掴める。
そう伝えようとして、言葉が出なかった。
詞織は両腕を下ろして、ただ桜を見上げていた。
桜雲の隙間から覗く青い空。
青が、こんなにも映える色は他にあるだろうか。
桃色の映えない青空が、どこにあるんだろう。
「わたしね」
まるで、桜に語りかける様に、詞織が口を開く。
けれどそれは確かに、俺に向けられたもので。
「朔がつかんでくれるなら、桜になりたいな」
どこまでも優しい響きだった。
四方八方、深く遠く響いてようやく俺に届いたような、そんな響き。



