河川敷への段差を一歩一歩、踏み締めて上る。
短い冒険だ。デート、なんて洒落た事を言ったら詞織は怒るだろうか。それとも照れて赤くなったりするのかな。
「桜雲だ…」
後ろに転んでしまいそうなくらい首を上向けて、桜に手を伸ばす詞織の隣に立つ。
「おううんってなんだ?」
「えっと…桜の花びらが雲みたい見える事だよ」
桜の雲。詞織と同じように上を見上げると、背の低い枝と目線が並ぶ。
確かに、桜の雲だ。
白い雲の少ない、青空から切り取られた桃色の空間は、どこまでも続いているようで、すぐに途切れている。
「綺麗だね!朔」
久し振りに詞織の大きな声を聞いた気がする。
寝惚けた口調も可愛かったけれど、鈴の音のようなこの声の方が、俺は好き。
「転けんなよ」
両手を桜にかざして、舞い落ちる花弁を掴もうとしているみたいだけれど、下手くそだ。
大人しくしていたら花弁の方から手のひらに乗るのに、動き回るから悪い。
俺が昔聞いた、桜の花びらが地面につく前につかめたら、夢が叶うという話を詞織は知っているだろうか。
両手を握ったり開いたりしても、上手くいかないらしい。
その横で、上向けていただけの俺の手のひらに1枚の花びらが乗る。
ちょうど手のひらに乗った瞬間を見た詞織は、目をぱちくりとさせて、笑った。
「すごいね、朔。知ってる?桜の花びらが落ちる前につかめたら、夢が叶うんだよ」
ああ、やっぱり詞織は知っていたんだ。
なんで俺がつかんでしまったんだろう。
俺の夢なんて、どうだっていいんだ。
だから、詞織の夢を叶えてやってくれよ。
詞織の手のひらに、乗ってやってくれ。



