街路樹が並ぶ大通りに出た所で、詞織が近くにあった公園のトイレで着替えを済ませる。
ズボンを穿き替えて、上はカーディガンを羽織っただけだけれど、パジャマには見えない。すれ違う人に驚かれたりはしないだろう。
「抜け出すのってこんなに大変だったっけ?バレずに帰れた事もあったのにな…」
もうすでに疲れた顔をする詞織の頬を抓る。
疲れているという事は眠いんだろうから、外での眠気覚ましはこれが一番効く。
やめて、と言いながらも抓るのをやめると目を細める詞織の手を引っ張って、河川敷へ向かう。
猫が跨る塀、電線の上で囀るスズメ、すれ違う刹那に顔を上げる犬。
どれも、以前の詞織なら立ち止まっていたはずなのに、俺も詞織も足を止めずにただ河川敷を目指す。
たいした事のない距離が、短くも長く感じる。
詞織にとっては外に出る事すら貴重で、俺にとっては詞織と歩いている時間がすごく大切なんだ。
ずっと歩き続けていたって、いい。
詞織が眠くなったら担いで歩く。
俺も眠くなったら、春の冷たい風を凌げる場所で休めばいい。
どこまでだって行ける気がするのに、どこまでも行ってみたいのに。
目の前に広がるのは、あまりにも見慣れた町並み。
「このまま、どこかに行きたいね」
詞織も、俺と同じ事を思っているのに。
叶えてやる術が、俺にはない。



