きみと、春が降るこの場所で



翌々日の昼下がり、久し振りに授業をサボって学校から病院まで走った。


すっかり顔見知りになった看護師に怪しまれたけれど、春休みだと誤魔化して切り抜けた。


明日が終了式だから、あながち嘘でもない。ほぼ春休みみたいなものだ。


俺だとわかるように、リズムをつけてノックをするようになったのは、つい先月の事。

コンッコン、コン、とノックをすると、控え目な詞織の返事が返ってくる。


「ほんとに来たんだ」


上半身を起こして本を読んでいた詞織が俺に駆け寄って耳打ちをする。


「今日は勉強するって中田さんに言ったから、下の階に行くのは怪しまれないと思う」


中田さんとは、詞織が特に仲のいい看護師の1人だ。


「俺が一緒に行ってもか?」


「大丈夫だよ。わたしの着替えは朔の鞄の中に入れさせてね」


すかっすかの俺の鞄を開くと、詞織が中に紙袋を押し込む。


病院を抜け出すなら1階のトイレで着替えるのがいいのだろうけれど、詞織を知っている医者に見つかると面倒だから、最短ルートで外まで出る計画だ。


詞織がいつも使っている勉強道具を入れた手提げを持って、病室を出る。


途中ですれ違う看護師や医者は何の違和感も感じていないように、一言二言話しかけて通り過ぎて行った。


「バレないもんだな」


「わたし普段はいい子だから、これ持ってたら怪しまれないよ」


ぺしぺしと手提げを叩く詞織とエレベーターで下りていると、なぜか3階に停止する。


「あれ、詞織ちゃん」


乗ってきたのは熊みたいにデカくて、ついで顔立ちもどことなく熊に似たおっさん。

白衣を着ているから医者なのは一目でわかったけれど、詞織の知り合いか。


大丈夫か、詞織。動揺したらバレるぞ。


チラッと横目で窺うと、詞織は熊に似た医者を見上げて、言った。


「オオクマ先生」


オオクマ…オオクマ?

熊みたいなのは見た目だけじゃなくて名前もかよ。絶対に濃い医者なんだろうな、この人。