満開の桜に見守られて、詞織(しおり)は眠っている。


情緒の欠片もない詞織は、舞い落ちる桜の花びらを掴もうと必死になって、大人しくしているような子じゃなかった。


それに、どちらかというと桜ではなくてヒマワリの方が好きだった気がする。


今の俺の背丈さえも優に超えるヒマワリの間を駆け抜けて行く背中を、よく覚えている。


うん。やっぱり詞織はヒマワリが好きだった。

それなのに、春になると桜が咲き乱れて、一面を桃色で覆い尽くすこの場所に詞織の墓があるのは、ほんの少し俺のせいでもある。

ヒマワリ畑に近い場所もあったのに、どうして桜並木がすぐ側にある墓地を選んだのかと言われると、もう理由は忘れてしまった。


本当に、覚えていないんだ。

詞織が死んだのは梅雨を少し過ぎた、蒸し暑い季節だったのに、どうしてだろう。


思い出そうとしても、目の前を落ちていく桜の花弁が思考を邪魔して、記憶は深い底へと沈む。


ふと、手を伸ばすと手のひらに花弁が乗る。

それを掴む間もなく、吹き抜けた風がもう一度花弁を舞い上がらせた。


空が、限りなく青い春の日。

きみに会いたい。