よく煮込まれたデミグラスソースがかかった、トロトロのたまごとチキンライスをすくって、一口食べた。
今まで食べたどのオムライスよりも、一番おいしい!とボクは思った。
そのオムライスの上に乗っかったハンバーグも食べたが、これもまた美味しかった。
彼女が言うように、この一皿を食べるだけで、この店のご主人が丁寧な仕事をし、料理愛に満ち溢れたシェフだということがわかる。
きっと本当に、どのメニューも美味しいのだろうとボクは思った。
『ねっ!美味しいでしょ!』
『うん!本当に美味しいよ。
こんな美味いオムライス食べたの初めてだよ。』
『うん!私も初めて食べた時そう思ったの。
彼氏にね、世界一のオムライスがあるって教えてもらってさ、絶対嘘だーって思ってたんだけど、本当に美味しくてビックリしちゃったんだよね。』
その時の思い出を愛でるように微笑んでいた。
『そっか。じゃあボクも彼氏さんにはしなきゃだね。こんな美味しいオムライスに出会わせてもらったからさ。』
『うん!そーだね!伝えておくね。』
それからボクたちは黙々と食べていたが、半分くらい食べ終わったところで、彼女が口を開いた。
『ねぇ、カオルは好きな人とかいないの?』
ボクはドキッとした。
なぜなら、ボクの好きな人は目の前にいるからだ。
その人は、可愛くて優しくて一緒にいるととても楽しくて、けどその人には、美味しいオムライス屋さんを知ってる彼氏がいて。
ボクはなんだか、とてもやるせない気持ちになった。
『あーあ。』という言葉を無性に声に出したくなった。
そんな儚い恋する気持ちを心の引き出しにしまって『いるわけないじゃん!やっぱり部活を頑張んなきゃ!』と笑って言った。
『そっか。でも部活には、戻りにくいんでしょう?』
『うん。けど、監督に謝ってもう一度頑張ってみるよ。』
そう言ってボクはもう一度、笑った。

