うつむく子供。
「泣いているのかい?」
声をかけたのは、真っ赤な瞳の他は、髪も肌も服さえ白いひと。
子供は無言で顔をあげる。
「少しだけ、話し相手をしてあげようね。
だから泣くのはよしなよ」
微笑みは美しく。
「少しだけ?」
揺らぐ瞳の中に、鮮やかに映る。
「…行くところがあるからね」
視線をそらすのが惜しい程に。
「なぜ泣いているんだい?」
茫然と見とれる子供に、静かに問い掛ける。
「…ここに、誰もいないから」
途端に満ちる涙は、零れる前に拭われる。
「寂しくて?」
優しい手に頬を拭われながら、違う、と思った。
「…怖くて」
そんな中、ぽろりと零れた言葉。
「何が怖いんだい?」
「…何だろう」
思い出せない。
何かがあったのはわかるのに。
「そうかい。
泣きすぎて疲れてしまったのかもしれないね。
少し眠ると良いよ」
「でも…」
その間に、居なくなってしまう気がした。
「目が覚めるまで、どこにも行かないから」
向けられたのは、穏やかな微笑。
ふ、と目を開ける。
子供は白いひとの膝に頭をのせて臥していた。
ゆっくりと髪を梳かれながら。
「目が覚めたのかい?」
微かな肯きを返す。
「…夢を見ました」
「そう」
「長い夢」
「どんな?」
「これが夢だっていう夢」
「そうだねぇ。
それがわかったなら、早くお帰り」
切なく響く声。
「あなたは?
…うさぎさん」
微笑は寂しげに曇り、赤い瞳が揺らぐ。
それから、茶化すように笑って。
「月にね、還るんだよ。
…十五夜が近いからね」
子供は霞む姿に必死に縋る。
「可愛がってもらったからね、最期に、思い出させてあげようと思って」
美しい微笑が消えていく。
「私は、守れなかったのに!?」
そのひとは、消えて行きながら、ゆっくり、首を振った。
「そんなことはないさ。
いいかい?……」
手のひらを、握られて。
直後、
全てが真っ白になった。
がばっと、起き上がったのは白い部屋の中。
「うさぎさん…」
手の中にあった小さな赤い石を、しっかり握り締める。
「もう、大丈夫」
誰に、何を言われたって。
もう、怖くない。
