さっさとこの場からいなくなろうとした須和さんの背中に向かって、咄嗟に呼び止める。


「あの、須和さん!」

「なに?」


まだ何かあるのかと若干迷惑そうな顔をしつつ、こちらを振り向く。
申し訳ない思いに駆られながらも、俺は問いかけた。


「もしも……もしもですよ?好きな人がとんでもないゲス野郎に言い寄られてたらどうしますか?その男に物申しますか?」


我ながらモヤっとした質問を投げかけてしまった。
これでは答えようにも答えられないんじゃないだろうか。もしくは無視されるかもしれない。
答えを待っている間にそんなことさえ考えた。
すると意外にも、須和さんはあっさりと返答した。


「そもそもそんなゲス野郎に言い寄られて喜ぶ女、好きにならない。ちゃんと自分で気づくようなら話は別だけど」

「え……」

「さりげなく気づかせてあげればいいんじゃない、その女に。とんでもない男だよ、って」


どんなに卑劣な男でも、どんなに浮気性の男でも、それでも熊谷課長が好きだという東山さん。
そんな彼女に、俺が気づかせてあげられることなんて出来るのだろうか。
彼女の気持ちを動かすことなど出来るのだろうか。


しばらく俺は、自問自答することになる。









━━━━━この後、衝撃的な出来事が起きるとも知らずに。