驚いたように顔を強ばらせる彼女に矢継ぎ早に言葉を浴びせた。


「ごめん。食事に誘ったのは下心があったからだ。君が好きだから。君が普通の恋をしていたなら諦めたけど、そんな不幸な恋愛なんかで満足してる姿は見たくない。頼むから目を覚まして。俺と付き合ってくれたら全身全霊で君を愛するから」


頭の中がこんがらがって、だいぶアッチッチなセリフを口にしていたであろうことは自覚している。
だけど止められなかった。


「東山さん、俺は…………」

「ごめんなさい、神田さん」


彼女は俺の言葉を遮って、意思のこもった目で見つめてきた。
大きくてバサッとした睫毛が女の子らしいが、その瞳には俺は映ってなどいなかった。


「私は熊谷課長以外の人を好きになれません。あの人しかいないんです」

「で、でも惨めなだけなんじゃ……」

「いえ、私、幸せです。だから心配しないで下さい」


ピシャリと言い切った東山さんは、ペコッと頭を下げると「お疲れ様でした」と事務的に告げて駆け足でその場から去っていってしまったのだった。


取り残された俺は、というと。


幸せなわけないじゃないか……、と心の中でつぶやくしかなかった。
そんな強がりを言って、虚しくはないのか?
いや、本当にそう思って言っているのかもしれないが、あとから気がついた時に大きなダメージを受けるのは目に見えている。


あの可愛らしい笑顔が沈み、泣いている姿だけは見たくない。
そう思った━━━━━。









そうして暗い気持ちのまま、会社にやって来たというわけなのだ。